池川伸治「さらさら鬼娘」(220円/1967年12月7日完成)
「節子は、いつも美しい心を持ちたいと願う、年頃の少女。
ところが、突然、節子の顔が他人の目に奇怪に映るようになる。
公園の絵描きの老人が言うには、それは節子の心が美しすぎるせいとのこと。
あまりに純白な心をしているため、節子は身近なものの影響をダイレクトに受けてしまうのであった。
その言葉通り、犬や猫が近寄ると、犬のように四つん這いで歩いたり、猫のようにネズミを食い殺してしまう。
引きこもりになった節子を救うため、ボーイフレンドの山本や家族、絵描きの老人は、節子にある計画を練る。
それは節子に人を憎む心を植え付けるというものであった…」
まず、最初に言うべきことは「さらさらっと人を殺すおそろしい娘の物語」(予告より)ではありません。(注1)
この作品のテーマは「美しさのない、この時代に、美しく生きるにはどうしたらいいのか?」というものなのであります。
その内容で「さらさら鬼娘」というタイトルは詐欺に近いとは思いますが、一応、最初の方で、少女の顔を「鬼」に描いていますので、ギリギリセーフ…なワケね〜だろ!!
まあ、それはさておいても、相変わらずの「池川」節が炸裂しているストーリーは、それなりに楽しめるとは思います。
動物に「感応」して「同化」してしまうというストーリーは、当時としては斬新だったのではないでしょうか?
あと、個人的に気になったのが、楳図かずお先生の影響であります。
池川伸治先生にとっては、同じ怪奇漫画家として、交流のあった楳図かずお先生は同志でもあり、ライバルであったはずです。
楳図かずお先生が怪奇漫画の新境地を開拓しているのを横目に、池川先生も負けじと多彩なアイデアを貸本怪奇マンガにぶちまけておりました。
池川先生にもプライド、いや負けん気があったとは思いますが、それでも、「蛇少女」の影響は大きかったことが下の画像より窺えます。
(とは言え、池川伸治先生は影響を否定するかもしれません。ただ、先生はもうお亡くなりになっておりますので、本当のところはわかりません。)
ともあれ、幸か不幸か、池川伸治先生は貸本マンガ時代の終焉とともに、漫画の表舞台からは姿を消し、継承する人は(今のところ)現れておりません。
そう考えると、こういう忘れ去られたマンガでも、かけがえのないように思えてしまうのです。
・注1
さすがに、作者も引け目を感じたのか、後記の隅っこに小さい字で「一部予告と変わっていた事をおわびします」と書かれています。
と言ってるそばで、巻末の次回予告「花のマリ子 毒の奇理子」の予告でまたテキト〜言っちゃってます。
予告によりますと、「ある日 私の家に奇理子という妙な女の子が北海道から来たといってたずねて来ました。そして…」とのことですが、実際の内容は「花の百合子 毒の奇理子」にてお確かめください。
・備考
ビニールカバー貼り付け。糸綴じあり。カバーの背表紙上下にセロテープ貼り付け。綴じの鉄鋲、錆。pp9・10、折れ痕あり。後ろの遊び紙に貸本店のスタンプあり。
2016年9月1日 ページ作成・執筆