いばら美喜「青春やくざ」(220円/1966年頃)



「大正四年(1915年)。十月中旬。八十五万石津谷家の城下町として栄えた黒塚市。
 沖田新次郎は、黒塚市市長である飯島定吉の屋敷に居候をする貧乏書生で、東京の一高に入るため、勉強に励んでいた。
 彼は、市長の娘、和江に想いを寄せていたが、彼女には金持ちの息子である義広も目を付けていて、所詮は身分違いの恋。
 ある日、彼は和江に呼ばれ、午後七時半までに役所に行き、父親と一緒に帰って来るよう頼まれる。
 和江の父親は誰かに恨みを買うようなことがあったらしい。
 午後八時過ぎ、新次郎は、飯島定吉の乗る俥に付いて歩いていた。
 定吉が恨みを買った理由と言うのは、一誠会というやくざの団体のカフェー建築を禁止したことであった。
 町中を過ぎ、人気のないところに差しかかると、顎ひげを生やした男と帽子・サングラス・マスクで顔を隠した男が待ち構えている。
 顎ひげを生やした男は道に立ちふさがり、相手にせず通り過ぎようとすると、俥屋は居合切りで殺される。
 待ち構えていた男達は一誠会の者で、市長暗殺が目的であった。
 新次郎は飛びかかるも、一刀で額を割られ、市長も斬殺される。
 瀕死の新次郎は町までどうにかたどり着いた後、彼はダンゴ屋の娘、光子に助けられ、どうにか一命をとりとめる。
 屋敷に戻ると、和江は父親の死体にすがって、悲嘆に暮れていた。
 和江は新次郎に父親の短刀を渡すと、父親の仇を討つよう頼む。
 和江の頼みとあらば断わるわけにいかず、新次郎は一誠会の屋敷を訪れる。
 新次郎が親分の勝五郎に「あごヒゲのある居合の達人」について尋ねると、勝五郎は彼にある提案をする。
 岬に顎ひげのある男を向かわせるので、彼は天狗岩の陰に隠れて、それが捜している男がどうか確かるというものであった。
 だが、それは罠で、勝五郎は目撃者である新次郎を岬で殺そうとする。
 岬に現れた顎ひげの男に左腕を切断され、新次郎は海へと飛び込む。
 これで死んだと思われたが、彼は生きて、巴組のやくざに身を落とす。
 三年後、彼は黒塚市に帰ってくる。
 和江は、父親の借金の返済のため、義広の妻となっていた。
 義広は新次郎に父親の仇を討つまでは顔を見せるなと冷たく言い放つ。
 和江が幸せでないことを知りつつも、彼には何もできず、黒塚市を出ることを決める。
 その前に、命の恩人である光子に会おうとするが、彼女はいやいやカフェで働かされていた。
 カフェに向かうと、光子はここから逃げ出し、彼女を一誠会の連中が追っていったと聞かされる。
 新次郎が駆けつけると、砂浜で光子が斬殺されていた。
 殺ったのは、積年の恨みのある、顎ひげの男。
 ここに至り、新次郎の怒りが爆発する…」

 いばら美喜先生による「イカスやくざ物」(読者コーナーの表現を借りました)です。
 当時の映画の影響があるのかどうかは詳しくないのでよくわかりませんが、メリハリのきいた展開で読ませます。
 残酷描写は快調、美人の描写も流麗で、ノッていた時期の作品ではないでしょうか?
 にしても、和江が父親の仇討ちに固執せず、警察の手を借りていれば、こんなことにはならなかったような気がするなあ…。

・備考
 ビニールカバー貼り付け。

2022年9月7日 ページ作成・執筆

東京トップ社・リストに戻る

貸本ページに戻る

メインページに戻る