池川伸治「犬寺の奇女」(220円/1967年頃)

 収録作品

・「犬寺の奇女」(1967年10月23日完成)
「犬寺の境内にある二本松。
 その松にいたずらをする者は呪われると言われ、犠牲者は八十六人を数える。
 この呪いの松を見るために、連日多くの人々が犬寺を参拝していた。
 犬寺のある町に住む山本家に、東京から親戚の治がやって来る。
 彼は、新聞で読んだ犬寺の記事に興味を抱き、調べに来たのであった。
 早速、彼が犬寺に参ると、そこで美しい少女と出会う。
 彼女は住職の娘で、神通力を持つと噂されていた。
 治が帰宅後しばらくして、その娘が山本家に治を訪ねてくる。
 彼女と少し話をしてから、治は寺へ出かけ、その夜、娘から二本松の由来を聞く。
 それは大昔、身分違いの恋故に起こった心中事件に関する話であった。
 娘は松は「愛」であり、「愛」に背く者は大自然から裁かれると話す。
 そして、彼女は治に、松に身体を付けて、一体になるよう祈るよう勧めるのであった。
 置手紙一つ残して、帰らなかった治を心配して、山本家の姉妹は犬寺を訪ねる。
 すると、治は境内で庭掃除をしており、姉妹に対して知らん顔。
 それどころか、参拝客を相手に、二本松は「愛」だと大真面目な顔をして力説していた。
 治の急変ぶりに戸惑う姉妹の前に、隣町の寺の娘が現れる。
 彼女はこのままだと治は一生犬寺で奴隷のようで働くことになると告げ、彼を救うためには松を切るしかないと話す。
 姉妹が松の呪いについて言及すると、娘はそれは寺の繁栄のためにでっち上げたものだと一蹴。
 松の呪いを最初から疑っていた姉妹は、力持ちの池の花を用心棒に雇い、ある夜、犬寺に侵入する。
 同じ夜、治は寺の住職の娘から二本松の秘密を明かされる。
 呪いを招くと言われる松の秘密とは…?
 そして、その松が切り倒される時…」
 発想の優れている作品のように思います。
 作品の中では詳しく説明はされておりませんが、大体をまとめると以下の通り。(かなりのネタばれ、ごめんなさい。)
「住職が、その娘を寺の松と一体化させる。それにより松を傷つけると、娘も傷ついてしまう。神通力を持つ娘は自分を守るため、傷つけた相手を殺害。そのために、呪いの松という評判が立ち、寺は参拝客で大繁盛。そこで、娘の相手として、治に目を付け、彼も松と一体化させることを目論む。」
 と、なかなかややこしい話の中に、金目当ての宗教に対する批判も織り込むあたりが心憎いです。
 ただ、ストーリーが優れているために、細かい部分の矛盾が気になります。
(特に、隣町の寺の娘が、松を傷つけても、何も自分には起こらなかったと話すシーン。この場合、ライバルの寺を潰そうという魂胆で、嘘をついた可能性もありますが、そのあたり判断材料がほとんどがなく、困ってしまいます。)
 ともあれ、良作の部類に入る作品ではないでしょうか。

・「金と愛」(1967年10月25日完成)
「大金持ちだが、他には魅力のない青年に求婚される娘。
 娘は金よりも「愛」と、「愛」に満ち溢れた青年のもとに走る。
 だが、彼には「愛」はあっても、ゼニ―もデリカシーも一片もなし。
 悩んだ女性の選んだ相手とは…?」
 結末は「中庸が一番」でして、他愛のないショート・ショートであります。ぶっちゃけ、極端過ぎなんですね

 作品の途中に捩じ込まれる「太陽日記 二回」が、タイトルに反して、かなり寒々しいです。
 皆、血気に逸りまくって、熱苦しいほどの理想論を展開しておりますが、彼らの決意がどれほど実現されたかを考えると、虚しさを覚えます。
 「理想」と「現実」…まあ、これに関しましても、「中庸が一番」なのでありましょうか…私にとっては、いまだ答えの出ない問題であります。

・備考
 ビニールカバーによる本体の歪み。ビニールカバー、袖に残り。糸綴じあり。。後ろの遊び紙に貸出票の剥がし痕とボールペンによる書き込みあり。

2017年7月12日 ページ作成・執筆
 

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