「怪談・60」(190円)



 収録作品

・浜慎二「ある夏の日に」
「医者の父親が購入した別荘に泊まりに来た、江波慎二という青年。
 空気はおいしく、山と湖が見渡される、風景もきれいな場所。
 別荘には留守番の老婆がいて、青年を部屋へと案内する。
 噂によると、そこには幽霊が出るらしいが、青年は現実主義者で、頭から信じない。
 最初の夜、青年は湖のほとりで少女の姿を見かける。
 階下に降りると、老婆と少女が鏡の前に立ち、少女は戸外に姿を消してしまった。
 そのことを老婆に問うと、老婆は少女なんかいないと言い、例の噂をほのめかし、「おじょうさんのことはそっとしておいてください」と付け加える。
 次の夜も、湖畔に少女が現れ、青年はそっと近づき、話しかけるが、少女は顔半分を隠すようにして逃げてしまう。
 少女は家の中に入っていくが、そこには老婆しかいない。
 老婆は、少女が過去に大火事で両親を失い、大火傷を負って、この別荘に老婆と共に移ってきたと話す。
 青年は湖での少女の行動に疑問を抱くのだが…」
 「怪談・増刊号」にて再録されております。扉絵をご覧になりたい方はそちらにどうぞ。

 派手さはありませんが、高度な幽霊譚ではないでしょうか。
 恐らく、原作があるのでしょうが、ヘンリー・ジェームズ(1843年〜1916年/「ねじの回転」の作者)を彷彿させる味わいです。
 ただ、当時の中心読者だった小中学生にはちと難しかったかもしれません。
 しみじみと不気味…当時の怪奇マンガとしては、かなり異色な内容です。

・小島剛夕「菊の冠せ綿(きせわた/注1)」
「菊作りで生計を立てる浪人、篠田寛之助。
 彼が浪人している理由も菊にあった。
 彼が仕えていた主君は菊が好きで、菊の佳節(九月九日)に、家来達が丹精した菊を上覧に入れる。
 その時、彼が作った菊が、上役の菊をさしおいて、殿に選ばれたことから、上役と決闘をすることとなり、仕方なく上役を斬って退職したのであった。
 ある日、彼の作った菊に引き寄せられるように、一人の娘が彼のもとを訪れる。
 彼女は記憶喪失で、菊の花のことしかわからなかった。
 彼は娘を菊殿と名付け、自分の住まいに住まわせる。
 二人は一年間、ゆっくりと愛を育み合うが、菊の佳節を目前とした九月八日、菊殿が菊に綿をかぶせていると…」


・サツキ貫太「夏祭り」
「梨園(歌舞伎界)の名門、山城屋の長男、松太郎は、料亭の女中、しのと結婚するために、家を出る。
 東京を離れて、父親の弟子を訪ねて歩くも、父親を恐れたり、ボンボンとバカにして、誰も彼を雇ってはくれない。
 そのうちに、しのが心労で倒れ、今日明日の命となる。
 夏祭りの夜、しのは、松太郎を必ず舞台に上げる、と言い残し、息絶える。
 そして、一年後、夏祭りの夜…」
 サツキ貫太先生、今回は「浮世絵」風に挑戦!
 線も細くなり、絵に艶めかしさを出そうと苦心した様子がうかがえます。(一部、モディリアーニみたいになっちゃってますが…。)
 決して名作とは言えない作品ではありますが、こういうものは心意気!だと私は思っております。
 私はこの作品、かなり好きだなあ。

・北風一平「石の兵隊」
「第二次世界大戦中の中国大陸、日本軍はロシア軍の攻撃にさらされていた。
 敵の機銃掃射の中、日本軍の兵士達はじりじりと敵の基地へと進む。
 その中に死を極端に恐れる兵士が一人いて、彼はある兵士の後にぴったり付いて行く。
 臆病者と罵られながら、彼は、石になることを切に願う。
 彼の故郷では、黄色い花を胸に飾り、涙を流すと、石になると言い伝えられていた。
 どうにかこうにか彼らは敵陣を突破するのだが…」

 中表紙の絵と浜慎二先生「ある夏の日に」は 「怪談・増刊号」にて再使用されております。

・注1
 「冠せ綿」とは、菊を初霜から守るために綿をかぶせることと、作中で説明されております。
 菊作りに関しては全く知識がありませんので、本当かどうかはわかりません。

・備考
 ビニールカバー貼り付け。糸綴じあり。pp89・90、コマにかかる欠損。pp105・106、上部に大きな裂け。後ろの遊び紙に貸出票の剥がし痕あり。

2019年3月31日 ページ作成・執筆

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