「怪談 増刊号」(発行年月日不明/300円)



 収録作品

・浜慎二「ある夏の日に」
「医者の父親が購入した別荘に泊まりに来た、江波慎二という青年。
 空気はおいしく、山と湖が見渡される、風景もきれいな場所。
 別荘には留守番の老婆がいて、青年を部屋へと案内する。
 噂によると、そこには幽霊が出るらしいが、青年は現実主義者で、頭から信じない。
 最初の夜、青年は湖のほとりで少女の姿を見かける。
 階下に降りると、老婆と少女が鏡の前に立ち、少女は戸外に姿を消してしまった。
 そのことを老婆に問うと、老婆は少女なんかいないと言い、例の噂をほのめかし、「おじょうさんのことはそっとしておいてください」と付け加える。
 次の夜も、湖畔に少女が現れ、青年はそっと近づき、話しかけるが、少女は顔半分を隠すようにして逃げてしまう。
 少女は家の中に入っていくが、そこには老婆しかいない。
 老婆は、少女が過去に大火事で両親を失い、大火傷を負って、この別荘に老婆と共に移ってきたと話す。
 青年は湖での少女の行動に疑問を抱くのだが…」
 「怪談・60」からの再録です。

 派手さはありませんが、高度な幽霊譚ではないでしょうか。
 恐らく、原作があるのでしょうが、ヘンリー・ジェームズ(1843年〜1916年/「ねじの回転」の作者)を彷彿させる味わいです。
 ただ、当時の中心読者だった小中学生にはちと難しかったかもしれません。
 しみじみと不気味…当時の怪奇マンガとしては、かなり異色な内容です。

・古賀しん一「骸骨とせむし男」
「S大学医学部の研究室。
 セムシで、醜い容貌ながら、若くして、教授にまでなり、将来を期待されていた。
 しかし、彼が作成した骨格標本が研究室に納められてから、怪異が周囲で起こり始める。
 その骨格標本は、彼の恩師が亡くなった際に、遺言に従い、恩師の身体を用いたものだった。
 怪異は恩師の娘にも起こり、恩師の娘に問い詰められ、彼は骨格標本の秘密について語り始める…」

・小島剛夕「心行刀」(しんぎょうとう)
「万延元年秋(1860年)。
 刀工のもとに一人の若い武士が訪れ、刀を作るよう頼む。
 彼には実の兄とも言っても過言ではない友人がいるが、友人を斬るのでなく、義に背く逆賊を斬る…そういう心で新しい刀が欲しいと言う。
 そして、刀の腕前を示す為に、刀工の持っていた杯だけを真っ二つにする。
 刀工は依頼を引き受け、刀つくりに全魂を傾ける。
 刀が完成した日、刀工は白髪、痩せ衰えた姿となって現れる。
 彼は娘の腕に濡らした奉書紙を置かせ、刀で引くと、奉書紙に血がにじんだ。
 それは、この刀が「斬るべきものを斬る心を宿した」ものでないことを意味していた。
 この不吉刀は依頼した青年から次々に人の手に渡り、血みどろの悲劇を生み出していく…」

・古谷あきら「蛇讐(じゃしゅう)」
「めまいを起こすと、あたりが真っ暗になり、白い蛇の幻が現れ、無性に人が殺したくなる…
 気がつくと、いつの間にか青年の目の前に男の死体が横たわっていた。背中には突き刺さったナイフ。
 その場から逃げ出す青年だが、青年の友人を名乗る男に呼び止められる。
 その男に小林と呼ばれ、青年は自分に関する記憶を失っていることに気付く。
 友人に言われるまま、青年は自主するが、刑事らと共に現場に行ってみると、死体は影も形もない。
 そして、友人の姿も消えていたのだった…」
 最後まで読んでも、ワケがさっぱりわからない、支離滅裂な内容です。
 バッド・トリップのような作品と形容はできましょうが、絵柄が稚拙なため、ちっとも迫力がありません。イマイチです。

・多摩海人「呪いの喉笛」
「金を返すよう言われて、友人を殺してしまった青年。
 どうした訳か何かを言おうとするたびに、殺した友人の今際のきわの言葉が口を出るようになる。
 そのことがもとで青年の犯罪を知った会社の同僚も殺めてしまい、青年は逃亡。
 逃げた先で青年が考えたのは、自分が「つんぼ」かつ「おし」になれば、人の言う事を聞いて、喋る必要もないということだった。
 更に、「めくら」になれば、完全とのこと!!(えっ?! どうして?!)
 そして、針で耳と眼を突き、水銀を飲んで、喉を潰そうとするが…」
 ヘンかつワケのわからん話なら、多摩海人先生の独擅場(どくせんじょう)!!
 この人のマンガの凄いところは、話の展開の突飛過ぎるところでしょう。
 人殺しをした後、被害者の今際の際の言葉が喉から出るようになった…というところまではよしとしましょう。
 でも、それを解決するため、「つんぼ」「めくら」「おし」になればいい…という展開が狂っているとしか言いようがありません。
 ちなみに、決行するものの、あまりの痛さにあっさり挫折、片耳、片目を失ってしまいます。
 その後で「まったくおれはバカだな あんなことしなくても めくらやおし、つんぼのかっこうをしてればよかったんだ……」と言っております。
 私もそう思います。

・福田三省「星は掴めない」
「銀座のデパートで夜中、マネキンが宝石売り場を荒らし、守衛が襲われるという事件が起きる。
 それ以降、宝石売り場の主任の周囲で、死んだはずの二葉君代が姿をちらつかせる。
 二葉君代は、宝石を紛失した疑いをかけられ、自殺してしまったのだ。
 そうして、徐々に、宝石売り場の主任の悪行が暴かれていく…」
 この作品で興味を惹かれるのは、盗み癖のある、金持ちの奥方の描写です。
 盗んだ時には素知らぬ顔をしておいて、後日、旦那のもとにその分の請求に出かけるのですが、昔からあった話なんでしょうね。

 最後に、表紙のイラストに関してですが、ボリス・カーロフの「フランケンシュタインの怪物」、クリストファー・リー(?)の「ドラキュラ伯爵」、ロン・チイェニーの「オペラ座の怪人」、「プルトニウム人間」まではわかるのですが、金髪女性のモデルは誰なんでしょうか?

・備考
 状態悪し。ビニールカバー貼り付け。糸綴じあり。前後の遊び紙欠。pp6〜18ぐらいまで水濡れあと。pp5〜10、pp17・18、コマにかかる大きな切れ。その他、多くの小切れ、小欠けあり。pp76・77に米粒が何かが挟まり、76ページに小破れ。

2014年10月13日 ページ作成・執筆
2019年3月31日 加筆訂正

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