唐沢俊一&ソルボンヌK子「森由岐子の世界」(1994年4月10日初版第一刷発行)

 収録作品
「魔怪わらべ・恐怖の家」
「死美女がまねく夜」
「母が私を狙ってる」

 2014年、高階良子先生がデビューから50周年を迎えました。
 実は、同じく50周年を迎えながらも、ちっとも顧みられることのなかった御人が、森由岐子先生でございます。(注1)
「ボニータ」でいまだ精力的に活躍している高階良子先生に対して、森由岐子先生は「恐怖の快楽」等のレディース・コミックのジャンルでの活動となりますので、知名度の差は歴然としてあるのでしょう。
 他にもいろいろと理由はあると思いますが、ここでは触れません。
 ただ、森由岐子先生のささやかなファンからすると、ちょっぴりセンチな気分になってしまうのです。

 そんな森由岐子先生を、二十年前に再評価したのが本書であります。
 注意しなければならないのは、この本は「問題作」なのです。(「問題を提起する」という意味でなく、「問題がある」という意味で使ってます。)
 この本の最大の売りは、森由岐子先生の怪作中の怪作「魔怪わらべ・恐怖の家」を筆頭に、レアな貸本マンガを含めて、三つの作品が読めるということ。
 また、「森由岐子作品・総まくり」は貸本マンガを多数紹介して、非常に資料性が高いです。
 しかし、そんな良い点を木っ端微塵に吹き飛ばす、大きな問題がありました。
 それは、森由岐子先生に対する「敬意」というものが一かけらもないということ。
 この本は森由岐子先生からの抗議から絶版となってしまったとのことですが、出版後に御本人から抗議を受けるという時点でおかしくありませんか?(注2)
 このあたりの経緯は全くわからないのですが、ネットでの噂によると、森由岐子先生の許可を得ずに、出版したらしいのです。
 もし、この噂が本当だとすると、これほど人をバカにした話はないと私は思います。

 厳しいことを書きましたが、学生時代の私がこの本に大爆笑して、怪奇マンガを集め始めたという、思い出深い本でもあります。(注3)
 ただ、森由岐子先生には不快な記憶しかないのでしょう。
 この本が森由岐子先生に与えた悪印象は深刻なものがあります。この歪んだイメージをいまだに払拭できていないでしょう。
 ですので、この本を丸ごと復刻しろとは言いません。
 ただ、何らかの形で、過去の作品がいろいろ読めるようになったら、いいな〜。
 作品を目にする人が増えれば、過去の評価もまた変わってくるかもしれません。

 最後に、唐沢俊一氏が名付けた『能天気価値』とやらに、根本敬先生の言葉を贈ります。
「「ハハハ 来てるね」といって笑っているうちは、そいつの負けだぞ」(注4)

・注1
 単行本の「死美女がまねく夜」(ひばり書房黒枠)の袖の紹介文によると、「昭和三十九年より少女漫画作家としてデビュー。」とのことです。
 ちなみに、レアな森由岐子先生のモノクロ写真も載っており、興味深いです。(斜にかぶったベレー帽がチャーミング。なかなかの別嬪さんでは…?)
(追加情報)
 森由岐子先生の初期の作品「天使の眠る丘」(東京漫画出版社/190円)は巻末の新刊案内から判断すると、1963年夏頃に出版されたもののようです。
 森由岐子先生のデビューは1964年よりも早かったのがわかります。(実際のデビュー年は不明)
 作品の途中の「由岐子の自己紹介」では、当時の年齢(秘密)とか、趣味はハンカチ集めとか、短所はよく笑うこととか、乙女ちっく全開で味わい深いです。
 ただし、作品は「長崎の原爆で孤児になった少女」を扱っており、意外とヘビーです。

・注2
「森先生にとって、過去の作品をこういう風にいろいろツッつかれることは決していい気分のものではないと思う。しかし、作品というものは、発表された時点で作者の手を離れ、自由な読み方をされる権利もまた、有している筈なのである。われわれは決して森作品をバカにしているわけではない。むしろ、あの時代にあそこまでブッ翔んだものを描いた伝説のひととして、大尊敬の念を捧げているのである。…」(「はじめに」p6)
 言っていることはパッと見、正論のようですが、この違和感はなんなんだろう…?
 そう言うのなら、欄外の揚げ足取りな「突っ込み」は排して、読者が「自由な読み方」をできるように配慮すべきでしょう。

・注3
 また、「まんがの逆襲」や「カルトホラー漫画秘宝館」にも大影響を受けました。(今、読んでも、凄いです。)
 それ故、こういう批判(「非難」になってなければ、いいのですが…)を書くのは、心が痛みます。
 いろいろと思うことはあるのですが、書いても詮無い事、やめておきましょう。

・注4
「幻の名盤解放歌集・BGMビクター編 資本論のブルース」ブックレット裏のマンガより引用。

2016年4月17日 ページ作成・執筆
2017年10月15日 加筆訂正
2019年6月19日 加筆訂正

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